Photo by Akemi Katsuno (Love the Life)
08. 消費されないデザイン

質問1:「レフトアローン」には学生の頃に行ったことがありまして、今日はじめて野井さんの作品だと知ってすごくテンションが上がってしまいました。ここも含めて、ドローイングだとすごく分かりやすいんですが、図面として平面的に描くことが難しい場合があると思うんです。野井さんは図面をどのように表現し、手法として位置付けられているんでしょうか。専門学校で店のデザインを教える時に、図面を描かせることに非常に苦労することがありまして、お考えをぜひ教えていただきたいのがひとつ。
もうひとつは、デザインをどのような手順で進められているのか、そのプロセスをお聞きできればと思います。

野井:工事費用の見積を作るときには図面にあたるものが無いとなかなか積算しにくいんですよね。例えば「レフトアローン」にしても「志村や」にしても、あんなふうに木がばーっとなってると、図面で描き表そうとしても、大変なわりにあまり精巧じゃないんです。一応描くことは描くんですけど。
それで僕は表を作るんですね。この杉材を例にすると、その太さ、長さごとに数を表に入れていくわけです。これで材料については値段がはじけるでしょ。あとはそれを組むための人工(にんく)ですね。施工会社にもよるんですけど、だいたい何人が何時間作業するかで計算します。その合計で工事費用が出てくるわけです。最初はこのドローイングみたいなのをぱっぱっと描いて、ここは寸角長さ何メートルやな、と想定して表に書いていくんですね。僕の場合はこういうドローイングが基準になって、表を描いて、後で図面化するんです。


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質問1:図面で考えたり図面で表現したりではないっていうことですね。

野井:だいたいそういうことです。図面は描きながら細かなバランスを考えるくらいのことで。図面には必ず寸法が出てきますんで、バランスが読みやすくなるんです。

質問1:学生でも、実際に仕事をされていても、パース(完成予想図)が描けなくて図面で考える人が多いのかな、と思うんです。そうではなくて、表現はパースや模型などでされていて、図面はあくまで出来上がりのバランスや費用を計るため、っていう考え方なんですね。目から鱗でした。

野井:正しいかどうかは別にして、僕はそういう気持ちでやってます。
デザインのプロセスについてはその時の気分と言うか、感覚しかないんです。最初にオーナーにお会いして、お話を聞いたときの瞬間が大事ですね。たとえばバーをやりたい場合、スタンドバーか、あるいはちょっとくつろぐことのできるバーか、いろいろ会話しながら店の要素を自分の頭の中に描いていくわけです。その中で映画のあるシーンを思い浮かべたり、あるいはアート系の雑誌でこういう表現もあったなあと、記憶の中からひらめきが生まれてくるんです。そういう時って、お互いに相手を知ろうとしていると思うんですよ。ネクタイの趣味とか、腕時計の趣味とか、そういうのを観察して、この人はどういう感覚を持っておられるのかなあと。それによって、自分が描こうとしているデザインがその人に分かってもらえるものかどうか、照らし合わせながら考えていったりするんです。

質問1:こんなんにしましょうか、っていう最初のプレゼンでは、なぜこうデザインしたのか、という説明をされると思うんですけど、その時にはどんなことを仰るんでしょうか。

野井:説明は少ないです。感覚論みたいになってしまうんで、僕の場合はね。ぱっと見せて、どうですか、って極端に言えばそんなんですね。こんな感じで考えてます、っていう。向こうから質問があれば答えていくと。

質問1:ある意味衝撃的なお話しでしたが、でも頷けました。ありがとうございます。


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質問2:今までに手掛けられた中で野井さんご自身が一番好きな作品、「あそびごころ」を表現することができたと思われる作品を教えていただけますか。橋本さんと河上さんにも、それぞれ一番お好きな野井さんの作品、影響を受けた作品をお聞きしたいです。

野井:お香屋さん、北山の店、あれかなあと思ってるんですけど。

質問2:「リスン」(*50)ですね。橋本さん、河上さんはいかがでしょうか。

橋本:さっき話しに出たバー「1」などでしょうか。だけど「チャーリーブラウン」もよく行ってましたし、ああいう空間も僕は好きなんです。僕もインテリアデザインをずっとやってきて、その移り変わりを追いながら、消費もしてきたんですが、いま先輩世代の方たちを見ると、失礼やけど表現として生み出されるものが無くなってきていると感じることが多いんですね。そうはならないところに野井さんの面白さがある。正直、野井さんのような方向を志してきて良かったなあと、思います。

河上:自分の思い出でもあるんですけど、やっぱり「風詩の教会」は感動的でしたね。さっきの船やオールのお話は披露宴の挨拶をしていただいた時にはじめて聞いて、涙が出そうになりました。

質問2:ありがとうございました。